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根こぶ病 |
ハクサイ、カブで被害が大きく、その名の通り根にコブができる病気です(写真1、2)。各種のアブラナ科作物で発生します。サツマイモネコブセンチュウなどのネコブセンチュウによるコブ(写真3)よりも概して大きなコブができます。地上部の症状は写真4のような葉のしおれですが、病気の出始めや症状が軽い内は朝晩や天気の悪い時にしおれが回復することがしばしばです。生育の早い段階での発病ほど被害が大きくなります。 根こぶ病は難防除土壌病害の一つで、抵抗性品種の利用や薬剤による防除、土壌pHの矯正などの耕種的防除等、複数の手段を用いた総合防除が求められます。羅病コブの中には伝染源となる休眠胞子が大量につくられるため、羅病根のすき込みは圃場の菌密度を容易に高める結果となり危険です。また、病状が進んでコブが腐った場合も胞子は土壌中に放出されるので、早期発見と羅病根の圃場外への廃棄がとても大切です。 抵抗性品種の利用は有用ですがその一方でこの菌は病原性の異なる系統(レース)が非常に多く、さらに同じ畑に複数の系統が混在することが知られています。従って抵抗性品種を導入したからといって、他の防除をおろそかにすると抵抗性品種を侵す系統が増えて再び大きな被害を及ぼすこともあるので注意が必要です。慢性的な発生圃場や激発圃場では土壌消毒を考える必要も出てきます。複数の防除を併用する場合、それぞれの効果をよく知った上で組み合わせる必要があります。例えば土壌中の休眠細胞の発芽を抑える薬剤とおとり作物を組み合わせる場合、おとり作物を植える時に薬剤を施用してしまうとおとり作物による効果が発揮されなくなってしまいます。 ![]() |
黒斑細菌病と黒腐病 |
ともに各種アブラナ科作物に寄生性があります。激しい風雨の後に大きな被害を及ぼすなど発生には環境条件、特に水分条件が大きく影響します(写真5)。典型的な病徴は黒斑細菌病は葉部の褐斑(写真6)で黒腐病では葉縁からのV字形の黄化・褐変(写真7)ですが、必ずしも典型的な症状が出るとは限りません。 黒斑細菌病は Pseudomonas syringe pv. maculicola(以下マキュリコラ)という細菌により引き起こされることは古くから知られていましたが、近年、マキュリコラとは性状の異なる P. syringe pv. alisalensis(=P. cannabina pv. alisalensis 以下、アリサレンシス)も原因菌となることが報告されました。これら2つの病原菌の違いで注意しなければならないのはイネ科植物に対する病原性です。マキュリコラはイネ科植物へは病気を引き起こしませんが、アリサレンシスは緑肥で使われるエンバクなどでも発病することがわかっており(写真8)、発生圃ではソルゴー等発病しにくいものを使う必要があります。 病原細菌はら病残渣とともに土壌中に残存し、降雨などによって気孔や水孔部、傷などに運ばれて感染します。被害茎葉を圃場外へ処分することや、降雨などで病原の感染機会が高まった時にタイミングよく薬剤防除をすることが大切です。 ![]() |
ウイルスによる病気 |
![]() また、新しいものとしてカブ黄化モザイクウイルスがハクサイで報告されています(写真12、13)。ヨーロッパなどでは古くから知られていたウイルスですが、日本では2005年に初めて発生が確認されました。 このほかにもいくつかのウイルスの報告がありますが、カブ黄化モザイクウイルスはハムシ類で、その他ほとんどのものはアブラムシによって伝播されます。従ってこれらの病害についてはアブラムシの防除が基本となります。特にアブラムシについては有翅虫の発生時期や作物の生育初期での対策が大切です。 ![]() |
黄化病 |
![]() 病態が進行し羅病組織がイタンでうると、微小菌核と呼ばれる黒い小さな粒上の器官が形成され、それが土壌中で長期間生存し伝染源となるので、防除において羅病残渣の除去が非常に重要です。また、本病に関与する病原菌はアブラナ科以外の植物にも感染することが知られており、輪作には注意が必要です。やはり状況によっては土壌消毒を考慮する必要があります。 |
萎黄病 |
![]() 対策としては抵抗性品種の利用が原則です。ただ、全く防除をしなかった圃場で、抵抗性品種が激しく発病したケースもありますので、その場合でも防除対策は必要です。羅病残渣とともに土壌中に残った菌が厚壁胞子と呼ばれる耐久性のある胞子を形成し、それが長期間生存して次作以降の伝染源となりますので、羅病株の早期除去という圃場衛生管理がやはり重要です。根こぶ病同様状況によっては土壌消毒や輪作などを考える必要が出てきます。 |
べと病と白さび病 |
![]() どちらの病気もダイコンやキャベツなど他のアブラナ科作物でも発生しますが、作物への寄生性によって数種類の系統があることが知られています。基本的にはハクサイ類にかかるべと病菌はキャベツ、ブロッコリー、ダイコンを侵すことはなく、キャベツやダイコンなどの菌がハクサイ類に病気を起こすことはありません。 病気は葉にできた胞子が雨などで運ばれ広がっていきます。涼しくてかつ湿度が高い時に発生が多くなります。風雨の直接当たらない施設栽培では露地に比べ被害が少なくなりますが、頭上灌水をする場合や水耕栽培などでは大きな被害ができることもあるので注意が必要です。 薬剤散布と羅病残渣の除去が防除の中心で、作物によっては耐病性品種も利用できます。薬剤防除は定期的な散布だけでなく、前述の通り風雨が強い時など病気が広がる危険性が高い時にタイミングよく行うことも重要です。耐病性品種を使う場合でも、菌の病原性分化も起こっているので他の防除との組み合わせが必須です。 ![]() |
その他地上部に病斑を生じる病害 |
白斑病、炭疽病、黒斑病などが上げられます。白斑病はハクサイやコマツナで、炭疽病はコマツナで被害が目立つようになっています。黒斑病は恒常的に発生が認められます。 白斑病は写真23のように淡褐色で濃淡の乏しい円形病斑を、炭疽病は輪郭の明瞭な若干くぼんだ褐斑を形成します(写真24)。黒斑病は木の年輪のような同心円状の輪紋を持った褐色病斑が典型的な症斑です(写真25)。ただし、べと病など他の病害含めて病斑だけでは判定し難いこともあります。 これらの病気は病斑上に形成された胞子が雨などで運ばれて広がっていきます。圃場でも初めに発病したカブから周囲へと病気が広がっている様子が観察されることがしばしばあります(写真26)。また、羅病残渣が土壌中に残って次作の伝染源になると言われています。気性王権を考慮した薬剤防除、羅病茎葉の防除、施設栽培での灌水注意や通気性の確保など様々な対策を組み合わせることが大切です。 以上、ハクサイ、コマツナ、チンゲンサイ、カブについて近年実際に産地で見られた病害を中心に紹介しましたが、軟腐病など取り上げていない病害はまだ他にもあります。このように多くの病害が問題となる中、健全な畑を維持することは並大抵のことではないと思いますが、丹念に対策を講じて良質な野菜の生産をしていただければと思います。 ![]() |
株式会社サカタのタネ